2024年7月、ジャパンM&Aソリューション株式会社の仲介により、日本教育備品株式会社様(譲渡企業)と、株式会社コーヤシステムデザイン様(譲受企業)の事業承継(M&A)が成立しました。創業以来、教育関係機関に教材・備品を提供してきた日本教育備品は、少子化による経営資源の減少や後継者不在という課題を抱えていました。一方、譲受企業の株式会社コーヤシステムデザイン様は自社製品の企画力・製造力強化を目指しており、双方がwin-winとなる形で今回のM&Aにつながりました。
どのような経緯でM&Aに至ったのか、お話を伺いました。
譲受企業情報
譲渡企業情報
会社名:日本教育備品株式会社
事業内容:教育機関向けの備品や家具を製造・販売
譲受企業情報
会社名:株式会社コーヤシステムデザイン
事業内容:車いすなど福祉介護用具の企画、製造、販売
Q:会社の成り立ちからお話しください。
日本教育備品株式会社 代表取締役 指方圭亮様 (以降 指方氏):当社は私の妻の父親が手掛けた昭和41年に創立した会社です。翌年の昭和42年に法人化しました。社名の通り創業時から現在まで教育機関向けの備品や家具を製造・販売しています。
創業当初は日本全体で子どもの数も非常に多く、一学年12クラスといった規模の学校も珍しくありませんでした。そうした大量の需要に支えられ、事業は右肩上がりだったそうです。また、小学校では木製家具が主流でしたが、弊社がいち早く金属製の机や椅子の取り扱いを始めたことが、会社の大きな成長につながりました。そうやって、新しい素材や技術を取り入れながら、常に学校現場のニーズに応えることで信頼を築いてきました。
その後、道路計画による立ち退きを機に足立区にあった本社・工場を深谷へ構えることを決断しました。当時は現在のように周囲に住宅もほとんどなく、倉庫ばかりの環境でしたが、逆に広い土地を確保でき、工場としては理想的でした。振り返ると、この決断が今に続く基盤になったと思います。
Q:堅実に事業を展開される中で、近年は事業承継が大きなテーマになっていたそうですね。
指方氏:そうですね。私自身婿として20年ほど前に社長に就任しましたが、娘しかいなかったために教育家具の製造を継がせるのは現実的ではないと考えていました。また、少子化のあおりを受け、年々教育備品の納入数も減少を続けていました。
そのような環境下で会社をどう残していくのか、社員の雇用をどう守るのかという大きな課題になったのです。
第三者承継(M&A)を検討したのも自然な流れでした。信用金庫の担当者や商工会議所の方からも「最近はM&Aによる事業承継という方法があります」と教えていただきましたし、現実的な手段かなと思っていました。
ただ、10年前はまだ中小企業のM&Aが今ほど一般的ではなく、正直なところ最初は半信半疑でした。しかし、いずれは何らかの決断をしなければならないと思い、少しずつ情報収集を始めました。そして、各所に相談していたところ、埼玉県事業引継支援センターからジャパンM&Aソリューション株式会社の横山さんをご紹介いただいた次第です。
横山(ジャパンM&Aソリューション 仲介担当):おっしゃる通り、当時の地方の中小企業にとって、M&Aはあまり馴染みのない言葉だったと思います。それでも指方社長は早い段階から「自分の代で会社を閉じるわけにはいかない」という強い思いを持たれていて、その点が印象的でした。
Q:今回、弊社を選ばれた決め手は何だったのでしょうか。
指方氏:やはり「人」ですね。横山さんの第一印象は「とにかく話しやすい」ということでした。M&Aについて何も知らかなかった私に対し、具体的な事例を挙げながら丁寧に説明してくださいましたし、細やかなヒアリングから当社の事情を理解しようという姿勢が伝わってきました。
実は、他のM&A仲介会社ともお話しさせていただいたのですが、弊社の事情や想いよりも、費用や手続きの煩雑さを強調されることが多く、「大変だな」と感じてしまったのです。その点、横山さんは違いました。取引先の紹介や弊社主催のイベントへの参加など、当社のことを知ろうと熱心に関わってくれました。この誠実さが決め手でした。
Q:なるほど、「M&A」という選択肢に対し、社員やご家族の反応はいかがでしたか?
指方氏:社員も家族も「事業が続くなら安心だ」と喜んでくれました。特に創業者である妻の父が大切にしてきた会社を守ることができると伝えた時、家族はとても安堵した様子でした。
Q:株式会社コーヤシステムデザインの松野様は、どのような観点で今回のM&Aを検討されたのでしょうか。
株式会社コーヤシステムデザイン 代表取締役 松野史幸様(以降、松野氏):もともと、弊社の製品の製造・加工をお任せできる会社を子会社として探していました。そんな折、弊社の顧問を務める税理士事務所からM&Aの仲介サイトを紹介され、試しに登録してみました。そこで出会ったのが日本教育備品さんでした。
最初は「教育家具」という分野は自社の福祉介護用具とは縁遠い事業だと考えていたのですが、横山さんとお話をするごとに「安全で価値ある製品を届けたい」という想いが共通しているのではないかと気が付いたのです。
教育備品さんが取り扱う子ども用の机や椅子は何よりも安全が求められます。特に子どもは、時に乱暴だったり、大人が想定しない使い方することもあり、120%安全なものでなければいけません。そういう、安心安全なものづくりを手掛けている会社が我々のチームに加わることで単純な作業のアウトソーシング先以上の価値があるのではないかと思いました。
その気づきが、このM&Aを前向きに検討する大きなきっかけになりました。
Q:実際の交渉・トップ面談はどのように進んだのでしょうか。
指方氏:面談は3回程度でした。といっても、初回から「この方なら任せられる」という確信がありましたので、あとの2回の面談は最終調整のようなものでした。先ほど、松野さんがおっしゃっていた通り、お互いに工場や製品を見せ合う中で、ものづくりに込める姿勢や雰囲気に共通点があることを実感できました。
松野氏:私も同じ感覚でした。製造業の会社には「その会社独特の雰囲気」があるものですが、日本教育備品さんの製品や職場の空気は、私たちの会社と非常に近いと感じました。そういう空気を感じたおかげで、お互いに違和感なく話を進められたのはM&A後の体制を構築する上でも大きかったですね。
ジャパンM&Aソリューション 横山:交渉全体を振り返っても、今回のM&Aは非常にスムーズでした。指方社長は「とにかく事業を継続してほしい」という強い思いを持っておられ、条件面も柔軟でした。松野社長も真摯に耳を傾け、双方の信頼関係が早い段階で築かれたことが成約につながりました。
Q:M&A締結の後、社員やご家族、地域の方々の反応はいかがでしたか。
指方氏:社員は「これで仕事を続けられる」と大変安心していました。特に長年勤めているベテラン社員からは「創業者の思いを途絶えさせずに済んで良かった」という声もありました。義母も「夫が築いた会社が続く」と涙を流して喜んでくれました。
松野氏:地域の方々からも「引き続き深谷で事業を続けてくれて良かった」という声をいただきました。地域に根差した会社なので、なくなってしまうと影響は大きかったと思います。私としても、その期待に応えたいと考えています。
Q:最後に、今後の展望をお聞かせください。
指方氏:教育家具と介護用品の技術やノウハウを融合し、新しい製品を開発したいと考えています。例えば、コーヤシステムデザインが介護分野で培った安全性の高い設計を教育現場に応用する。逆に我々が教育分野での長年の経験を介護用品に取り入れる。そうした双方向の発想で、新しい価値を創り出せるはずです。
松野氏:私は「人を大事にすること」を第一に考えています。従業員が安心して働ける環境を整え、チームとして一丸となれるようにする。その上で、新しい市場を開拓し、成果を出しながら未来志向の製品づくりにつなげたいです。教育と介護の融合というテーマには大きな可能性を感じていますし、これからが本当に楽しみです。
ジャパンM&Aソリューション 横山:今回のM&Aは、単なる事業承継ではありません。教育と介護という異なる分野をつなぎ、新しい価値を創造していく挑戦です。両社が力を合わせることで、これまでにない製品やサービスが生まれ、社会に大きく貢献することを期待しています。
